SuDDICU Investigators for the Australia and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group and the Canadian Critical Care Trials Group, Cuthbertson BH, Billot L, et al. Selective Decontamination of the Digestive Tract during Ventilation in the ICU. N Engl J Med. Published online October 29, 2025. doi:10.1056/NEJMoa2506398
Why this paper matters
消化管選択的除菌(SDD)は長年その有用性が議論されてきたが、薬剤耐性菌増加への懸念から普及が進んでいなかった。本研究は、2万人規模の国際的なクラスターランダム化比較試験により、現代の集中治療管理下におけるSDDの死亡率改善効果と微生物生態系への影響を検証した重要な報告である。
Study overview
人工呼吸器装着患者における上部消化管由来の好気性グラム陰性桿菌や真菌の過剰増殖を抑制し、二次的な院内感染性下気道感染症を予防する目的で、SDDは40年以上前に考案された。この手法は、コリスチン、トブラマイシン、ニスタチンから成る非吸収性抗菌薬の口腔内塗布および経管投与に加え、短期間の静注抗菌薬を併用するものである。これまで75件以上の臨床試験が実施され、最新のベイズ統計を用いたメタ解析では、32件のランダム化比較試験(24,389例)を統合した結果、SDDが院内死亡率を低下させる事後確率は99.3%に達すると報告されている。この解析では、静注抗菌薬を含むSDDレジメンでは死亡リスクが有意に低下する一方で(RR 0.84)、含まない場合は効果が不明瞭であることも示唆されていた。
しかし、このメタ解析には本プロジェクトの先行報告であるオーストラリア単独のデータ(5,982例)が含まれているものの、同試験単独では死亡率の有意な低下は示されておらず、現代の集中治療管理下における有効性や微生物生態系への影響については依然として不確実性が残されていた。
本研究(SuDDICU試験)は、この背景を踏まえ、オーストラリアとカナダの26箇所のICUにおいて、静注抗菌薬を併用する標準的なSDDレジメンの有効性を、クロスオーバー・クラスターランダム化比較試験で検証したものである。
主要評価項目は90日時点の院内死亡率とし、ICU全体の微生物生態系への影響を評価する観察的評価も並行して実施された。
Key findings
解析対象となった9,289例において、90日院内死亡率は介入群で27.9%、標準ケア群で29.5%であり、有意な差は認められなかった(オッズ比 0.94; 95%信頼区間 0.84-1.05; P=0.27)。
二次評価項目であるICU死亡率や人工呼吸器離脱日数においても両群間に有意差はなく、過去のメタ解析が示した高い効果は、本大規模試験の主要解析では再現されなかった。
介入群(SDD群)の患者個人を対象とした解析では、新規の血流感染症(4.9% vs 6.8%)および薬剤耐性菌の検出(16.8% vs 26.8%)のいずれも、標準ケア群と比較して頻度が低い結果であり、個々の患者における微生物の過剰増殖や定着、その後の感染症発症を抑制したことを示唆している。一方で、本研究の大きな特徴は、研究に参加していない患者も含めた「ICU全体(生態学的評価)」への影響を検証した点であり、2パーセントポイントという厳格な非劣性マージンの中で薬剤耐性菌の発生に関する差の95%信頼区間の上限が4.8パーセントポイントに達し、事前に設定した2%の境界線を越えたため、非劣性は証明されなかった。
副作用については、SDD群の0.3%で軽微な薬物反応が報告されたが、重篤な有害事象の発生率は両群間で同程度であった。
Clinical perspective
本研究では、前述のメタ解析で「死亡率を改善する確率が極めて高い」とされたSDDが、現代の洗練された標準ケア下では明確な生存利益を示さない可能性が示唆された。
個々の患者における血流感染や耐性菌定着の抑制効果は確認されたものの、ICU全体の耐性菌発生リスクという公衆衛生上の懸念を払拭するには至っていない。生態学的評価の観察期間が短く、症例数が十分でなかったために、非劣性を証明または否定する能力が限定的であった可能性はあるものの、生態学的評価は「ICUに入室した全患者」を含んでおり、SDDの影響がユニット全体の耐性パターンの変化として波及している可能性がある。
本試験の限界として、薬剤耐性率が比較的低い地域(26.8%)で実施されたことが挙げられ、耐性菌蔓延地域への一般化には慎重な判断が求められる。
事後解析でベネフィットが示唆された急性脳損傷患者(OR 0.80)に限定した検証や、耐性菌発生リスクの長期的なモニタリングが不可欠である。


