再発・難治性多発性骨髄腫におけるイサツキシマブ皮下注用ウェアラブル注入器の有効性と安全性の検証:第III相IRAKLIA試験

再発難治性多発性骨髄腫に対するイサツキシマブ皮下注OBI投与の非劣性を検証したIRAKLIA試験 Recent Papers

Ailawadhi S, Špička I, Spencer A, et al. Isatuximab Subcutaneous by On-Body Injector Versus Isatuximab Intravenous Plus Pomalidomide and Dexamethasone in Relapsed/Refractory Multiple Myeloma: Phase III IRAKLIA Study.J Clin Oncol. 2025;43(22):2527-2537. doi:10.1200/JCO-25-00744

Why this paper matters

本研究は、抗CD38抗体イサツキシマブの皮下投与において、自動注入器(on-body injector: OBI)を用いた初の第III相試験であり、従来の静注投与に対する非劣性を証明したものである。輸注関連反応の劇的な減少と患者満足度の向上を両立しており、多発性骨髄腫診療における投与時間の短縮と医療資源の最適化に直結する重要な知見を提供している。

Study overview

多発性骨髄腫において抗CD38抗体は標準治療であるが、静注投与は長時間の拘束を伴い、手動による皮下投与も医療スタッフの負担が大きいという課題があった。
本研究では、ハンズフリーで一定圧の投与が可能なOBIを用いた皮下投与の非劣性を検証することを目的とした。
IRAKLIA試験は、レナリドミドおよびプロテアソーム阻害剤を含む1ライン以上の前治療歴を有する再発・難治性多発性骨髄腫患者531例を対象とした国際共同オープンラベル第III相非劣性試験である。患者はイサツキシマブOBI群(1,400mg固定量)または静注(IV)群(10mg/kg)に1:1に割り付けられ、いずれもポマリドミドおよびデキサメタゾン(Pd)と併用された。
共主要評価項目は、奏効率(ORR)および第6サイクル1日目投与前の定常状態における血清トラフ濃度(Ctrough​)と設定された。
統計的解析では、ORRの比率について0.839、C trough​の幾何平均比について0.8を非劣性マージンとして評価が行われた。

Key findings

12ヶ月の中央値追跡期間において、ORRはOBI群で71.1%、IV群で70.5%であり、相対リスク1.008(95%CI: 0.903-1.126)と非劣性マージンをクリアした。
薬物動態においても定常状態のC trough​幾何平均比は1.532(90%CI: 1.316-1.784)であり、皮下投与による十分な曝露が確認された。
特筆すべき安全性データとして、輸注関連反応(IR)の発現率がIV群の25.0%に対しOBI群では1.5%と著明に低く、その多くはグレード1-2であった。
注射部位反応はOBI投与回数の0.4%に留まり、99.9%の注射が中断なく完了した。
また、患者満足度調査において満足と回答した割合はOBI群で70.0%、IV群で53.4%であり、有意に高かった。

Clinical perspective

本研究の最大の新規性は、ウェアラブルデバイスであるOBIを用いることで、医療従事者の手技負担を軽減しつつ、従来の静注療法と同等の抗腫瘍効果を維持できることを示した点にある。
既存のICARIA-MM試験(https://doi.org/10.1016/s0140-6736(19)32556-5)の静注データと比較しても遜色のない奏効率が得られており、特にIRの著明な低減は将来的な在宅投与への可能性を示唆している。
OBI群においてISS stage IIIや髄外病変などの予後不良因子がわずかに多かった点や、全生存期間のデータが未成熟である点は解釈上の留意事項であるが、忍容性は概ね良好である。
現在はカルフィルゾミブ併用(IZALCO試験)や未治療例に対するVRd併用(IsaSoCut試験、GMMG-HD8試験)におけるOBIの検証が進行中であり、さらなる適応拡大が期待される。

以下、OBI操作手順です。
薬剤の充填: OBIはシリンジからの転送(syringe transfer)によって薬剤をデバイス内に充填する仕組み(OBI ST)となっている。

  • 装着部位: 投与部位は臍周囲の皮下組織である。
  • 部位の変更: 投与のたびに注射部位をローテーションして使用することが規定されている。

投与メカニズムと技術的特徴

  • ハンズフリー投与: 医療従事者が数分間にわたってシリンジのプランジャーを一定の速度で押し続ける必要がある手動の皮下投与(manual push)とは異なり、装着後はハンズフリーで薬剤が注入される。
  • 一定の注入圧: デバイスが一定の圧力(constant pressure)で薬剤を供給するため、投与速度が安定しており、手技によるばらつきが生じない。
  • 細い針の採用: 手動皮下注で使用される23〜25ゲージの針よりもさらに細い、30ゲージ(30-gauge)の針が採用されている。
  • 針の安全性: 針はデバイス内部に隠されており(hidden)、投与終了後には自動的に格納(retractable)される設計となっているため、医療従事者の針刺し事故のリスクが最小限に抑えられている。

投与時間と利便性

  • 投与時間: 注入にかかる時間は中央値で13分であり、97.9%の症例で20分以内に完了する。
  • 患者の自由度: 投与中、患者は座っている必要はなく、軽い日常活動などの自由な動き(freedom of movement)が可能である。
  • 投与場所: 原則として医療従事者(HCP)が装着を行うが、特定の条件(第4・5サイクルで輸注関連反応がない等)を満たせば、第6サイクル以降の特定の投与回において在宅での投与も可能となる設計である。