再発・難治性B細胞性急性リンパ性白血病におけるTisagenlecleucel投与後の感染合併症:CIBMTRデータに基づく大規模リアルワールド解析

B細胞性ALLにおけるCAR-T療法後感染症の観察研究 Recent Papers

Rangarajan HG, Satwani P, Herr MM, et al. Real-world outcomes of infections following tisagenlecleucel in patients with B-cell ALL: a CIBMTR analysis. Blood Adv. 2025;9(21):5489-5500. doi:10.1182/bloodadvances.2025016149

Why this paper matters

再発・難治性B細胞性急性リンパ性白血病(R/R B-ALL)に対するTisagenlecleucel(tisa-cel)は高い奏効率を示す一方で、感染症は重要な合併症であるが、これまでは単施設や治験データに基づく報告に限定されていた。本研究は大規模なリアルワールドデータを用いて、感染症の頻度、時期、およびリスク因子を明らかにしており、臨床現場における個別化された感染予防戦略の構築に寄与するものである。

Study overview

CAR-T細胞療法はR/R B-ALLの有望な治療選択肢である。Tisagenlecleucel (tisa-cel)は米国FDAで最初に承認された製剤であり、小児・思春期のR/R B-ALLにおいて全奏効割合73-87%と高い成績を誇っている。
一方で、cytokine release syndrome(CRS)やimmune effector cell- associated neurotoxicity syndrome(ICANS)といった毒性に加え、感染症が予後に与える影響が懸念されている。
CRSやICANSについては多く研究されているものの、感染症においては多施設共同のリアルワールドにおける感染症の詳細な疫学やリスク因子が十分に解明されていない。
本研究は、2017年から2022年の間にCIBMTR( Medical College of Wisconsin と NMDPのコラボレーションで設立された研究グループで360以上の医療施設が登録)に登録された、tisa-cel投与を受けた小児および若年成人患者471例(中央値13.8歳)を対象とした多施設共同研究である。
主要評価項目は、投与後100日目までの臨床的に重大な感染症の発生率、パターン、およびアウトカムに設定された。
統計解析では、再発や死亡を競合リスクとして考慮した累積発生率が算出され、Cox比例ハザードモデルを用いて感染症発症に関わるリスク因子が同定された。

Key findings

投与後100日目までに、全体の29%にあたる137例が少なくとも1回以上の感染症を経験し、100人日あたりの感染密度((総感染件数 ÷ 全患者のリスクにさらされた延べ日数)× 100)は0.542であった。細菌感染の密度は投与後30日以内(0.179)の方が、31〜100日(0.113)よりも高いが、ウイルス感染では逆に31〜100日(0.117)の方が、30日以内(0.095)よりも高くなる傾向が示されている。感染症の累積発生率は、細菌感染が14.1%、ウイルス感染が11.6%、真菌感染が1.3%であり、細菌感染の多くは投与後30日以内に発生していた。
Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析では、3ライン以上の前治療歴(HR 1.86)、全グレードのCRS発症(HR 1.78)、および好中球回復の遅延(好中球絶対数(ANC)が500/mm³(または0.5 × 10⁹/L)以上に達し、かつ別々の日に測定された3回連続の検査でその数値を維持した時点までの期間)(HR 2.63)が感染症全体のリスク因子として抽出された。
また、ウイルス感染については、高齢、感染既往歴(HCT-CI)、およびCAR-T投与前の造血幹細胞移植歴が独立したリスク因子であった。
特筆すべき点として、投与後100日時点の感染関連死亡率は0.2%と極めて低値に抑えられていた。

Clinical perspective

本研究ではリアルワールドの最大規模コホートにおいて、tisa-cel投与後の感染症発症が治療歴やCRS合併と関連していることを示した。
臨床的には、感染症の発生頻度は高いものの、適切な管理下では早期の死亡原因にはなりにくいことが示唆された。
研究の制限として、CIBMTRデータには予防投与の詳細や好中球減少の持続期間が含まれておらず、施設間の予防戦略や個々の好中球減少期間の定量的影響については考慮されていない。予防戦略においては今後検討の余地がある。
ASTCTのベストプラクティス(https://doi.org/10.1016/j.jtct.2024.07.018)では、現時点で特定の抗感染症薬による一律の予防投与を推奨するエビデンスは不十分であると指摘されている。
しかし、本研究で同定された移植歴や多ラインの前治療歴などのリスク因子に基づき、サーベイランスの強化や、特定の抗感染症薬(抗菌薬や抗ウイルス薬など)を用いた個別化された予防戦略の有用性を検証する臨床試験の実施が、今後の重要な検討事項として位置づけられている。