Fung JST, Wright RC, Bharaj DK, et al. Virus-Specific T-Cell Therapy for Prophylaxis and Treatment of Cytomegalovirus Infections After Transplantation: a Scoping Review. Clin Infect Dis_. 2025;81(4):e218-e228. doi:10.1093/cid/ciaf232
Why this paper matters
サイトメガロウイルス(CMV)感染症は、造血幹細胞移植(HSCT)および固形臓器移植(SOT)後における主要な合併症であり、生着不全や他の日和見感染症のリスクを増大させる。
現行の抗ウイルス薬による治療は、骨髄抑制や腎毒性といった副作用、さらには薬剤耐性ウイルスの出現という課題を抱えている。
こうした背景から、養子免疫療法(Adoptive immunotherapy)の一種であるウイルス特異的T細胞(virus-specific T-cell ; VST)療法が、非毒性の代替療法として注目されている。
CMV-VSTは、患者の体外(ex vivo)で特異的なT細胞を分離・増殖させることで製造される。その手法は大きく分けて以下の3通りが挙げられる。
- 抗原提示細胞(antigen presenting cell;APC)の利用:CMV由来のペプチドを負荷したAPCを用いて、標的となるT細胞を刺激・増殖させる手法。
- ウイルスベクターの利用:pp65やIE1といった、ヒトの免疫応答において支配的な(immunodominant)CMV抗原をコードするウイルスベクターを導入し、T細胞を感作させる手法。
- 磁気濃縮法(Magnetic Enrichment):特定の抗原に反応するT細胞を直接選択・分離する技術であり、迅速な製造を可能にする。
特にpp65およびIE1は、VSTがウイルスを認識する際の主要な標的として重要視されている。
VSTの供給源には、患者自身の細胞を用いる「自己由来(autologous)」と、他者の細胞を用いる「同種由来(allogeneic)」がある。
- 供給源の選択: ドナー(D)とレシピエント(R)の血清学的ステータス(既往の有無)や、適切なドナーの有無に依存する。
- スケーラビリティ: 多くの患者に対して迅速かつ安定的に治療を提供するためには、自己由来よりも同種由来(特に第三者ドナー由来)の方が現実的かつ効率的であるとされています。
造血幹細胞移植(HSCT)において、CMV抗体陰性ドナーはCMVに対する免疫T細胞を保有していないため、移植片から自然な免疫回復を期待することが困難である事から、ドナーが抗体陰性でレシピエントが陽性(D−/R+)の組み合わせは、CMV感染・再活性化の最高リスク群に分類される。このような症例では、既往のある第三者(third-party)ドナーから得られたVSTが免疫補完のために極めて重要な役割を果たす。
あらかじめ製造し「バンク」として保管しておくことで、必要時にHLA(ヒト白血球抗原)が適合する複数の非血縁患者に対して、製造時間を待たずに投与できる「既製品(off-the-shelf product)」としての運用が可能になる。これにより、急激に進行する難治性感染症に対しても迅速な介入が期待できる。
しかし、これまでの研究は小規模なものが多く、適応症、製剤の製造法、臨床的アウトカムに関する報告は極めて不均一であった。
本論文は、過去30年以上にわたる知見を包括的に収集・分析することで、CMV-VST療法の現状と課題、および将来の臨床試験設計に不可欠な要素を整理しており、臨床現場における意思決定と今後の研究の方向性を定める上で重要な意義を持つ。
Study overview
本研究は、HSCTおよびSOT患者におけるCMV感染の予防および治療を目的としたCMV-VST療法の既存文献を調査したレビューである。
2024年5月31日までに発表された文献を対象に、PubMedおよびEmbaseを用いて系統的な検索が行われた。最終的に抽出された67件の文献(HSCT:65件、SOT:4件)には、第1/2相試験(33件)、症例報告シリーズ(27件)、コホート研究(4件)、ランダム化比較試験(3RCTs、3件)が含まれている。
本レビューでは、VSTの適応を「予防」「非難治性感染症の治療」「難治性・耐性(R/R)感染症の治療」の3群に層別化し、患者背景、VSTのソース(ドナー由来、第三者由来、自己由来)、投与タイミング、臨床的反応、および安全性を評価している。
Key arguments / Evidence synthesis
CMV-VST療法の臨床的有効性は、対象疾患の状態によって異なることが示された。
HSCT患者において、予防目的でVSTを使用した22研究(338例)でのCMV感染率は28%(IQR 14%–44%)であった。
治療目的では、非難治性感染症に対する完全奏効率の中央値は98%(IQR 70%–100%)と極めて高く、難治性・耐性(R/R)感染症においても70%(IQR 56%–88%)の良好な奏効率が維持されていた。
一方で、SOT患者におけるR/R感染症へのVST使用報告は4研究(41例)と限定的であり、奏効率も15%–64%と大きな幅が見られた。
VSTの製造ソースに関しては、HSCTドナー由来(79%)が最も多く、次いで第三者(バンク)由来(42%)、自己由来(3%)の順であった。
第三者由来のVSTは、2アレル以上のHLA一致があれば、ドナー由来と同等の治療効果が得られる可能性が示唆されている。
製造方法としては、CMVペプチド刺激による生成(34/67研究)が主流であり、HLAマルチマーを用いた直接選択法やウイルスベクターによる抗原提示も行われていた。
安全性については、総じて良好な忍容性が報告されている。
サイト放出症候群(CRS)の発生は極めて稀(グレード2以下が2例のみ)であった。
新規または悪化する移植片対宿主病(GVHD)は、予防投与群で最大60%、治療群で最大36%に認められたが、VST投与との因果関係は明確ではない。
SOTにおいては、多価VST投与後に3例の急性拒絶反応が報告されている。
これらのデータの不均一性を持っており、CMV感染や治療反応の定義、DNA量測定の標準化、併用抗ウイルス薬の報告様式が研究間で大きく異なっていることから、VST単独の真の効果量を評価することが困難になっている。
また、レテルモビルやマリバビルといった新規抗ウイルス薬が登場した現代の治療体系におけるVSTの役割については、依然としてデータが不足している。
Clinical perspective
CMV-VST療法は、特に標準的な抗ウイルス療法が奏功しない、あるいは副作用により継続困難なHSCT患者において、有望な選択肢となり得る。
しかし、臨床実装に向けてはいくつかの制限が残されている。
第一に、SOT患者における有効性の確立である。継続的な免疫抑制剤の使用や、HSCTのような前処置の欠如が、注入されたVSTの体内増殖を妨げている可能性があり、さらなる検討を要する。
第二に、製造プロセスの自動化とスケーラビリティである。
広範な普及には、商業的なバンク化製品の安定供給が不可欠であるが、一部の第3相試験が有効性を示せず中止されるなどの課題にも直面している。
今後の臨床的展望として、2024年に更新されたCMVコンセンサス定義の遵守や、標準化されたレジストリによる長期的なアウトカムの追跡が求められる。
また、新規抗ウイルス薬との併用における最適な投与タイミングや投与量の策定が必要である。
現時点では、CMV-VST療法は標準治療を補完する高度な個別化医療としての位置付けに留まっているが、今後の高品質な介入試験により、その生物学的な妥当性と臨床的有用性がより明確に検証されることが期待される。


