黄色ブドウ球菌菌血症における血液培養陽性判明時間を用いた感染性心内膜炎のリスク層別化:11年間の大規模コホート研究

黄色ブドウ球菌菌血症の陽性判明時間による感染性心内膜炎リスク層別化の研究 Recent Papers

Strömdahl M, Hagman K, Hedman K, Westman A, Hedenstierna M, Ursing J. Time to Staphylococcus aureus Blood Culture Positivity as a Risk Marker of Infective Endocarditis: A Retrospective Cohort Study. Clin Infect Dis. 2025;80(4):727-734. doi:10.1093/cid/ciae628

Why this paper matters

黄色ブドウ球菌菌血症において、血液培養の陽性判明時間(TTP)が感染性心内膜炎の有力な予測因子であることを、1,700例を超える大規模コホートで証明したものである。TTPは検査室で自動的に記録される指標であり、臨床医が心エコー検査の緊急性や精密精査の必要性を早期に判断するための客観的なリスク層別化ツールとして機能する。

Study overview

黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)は10〜15%の割合で感染性心内膜炎(IE)を合併し、その死亡率は医療の発展にも関わらず約20%と依然として高い。
これまでの研究で、IEのリスクとして血液透析、熱源不明の感染症、人工弁留置、適切な抗菌薬開始後2-4日後の血液培養フォローアップでの発育が挙げられる。
先行する小規模研究ではTTPの短縮とIEの関連が示唆されていたが、臨床的な有用性を確立するためには大規模な検証が必要であった。
本研究は、スウェーデンの三次救急病院(Danderyd Hospital)において2011年から2021年の間にSAB(1set以上の陽性)を呈した成人患者1,703エピソードを対象とした単施設後方視的コホート研究である。培養検体はKarolinska University Hospital(Danderyd Hospitalより7kmの距離)の微生物科へ搬送し解析された。
主要評価項目はIEの発症とし、初回血液培養セットにおける最短のTTPとIE発症の関連を評価した。診断はmodified Duke criteriaをベースとしたSwedish Society for Infectious Disease guidelinesにより治療する医師が判断をした。

S. aureusの感染経路は、Friedmanらによって記述されたように3つのカテゴリーに分類された。
(1) 入院後48時間以内に感染が診断された場合、”院外感染”と分類される
(2) “医療関連感染”:患者が介護施設に入所している、在宅で静脈内療法を受けている、過去30日以内に静脈内化学療法を受けた、血液透析療法を受けている、または過去90日以内に急性期病院で治療を受けた場合
(3) “院内感染”:入院後48時間を超えて感染が診断された場合

持続性菌血症は、米国感染症学会(IDSA)の推奨に基づき、初回血液培養から24~96時間後に採取した血液培養で黄色ブドウ球菌が陽性となった場合と定義した。
再発は、初回菌血症に対する抗菌薬治療終了後30日以内に血液培養で黄色ブドウ球菌が検出された場合と定義した。

解析には単変量および多変量ロジスティック回帰分析を用い、既存のIEリスク因子である人工弁の存在や持続性菌血症などを含めて調整が行われた。

Key findings

対象となったSABの9%(154/1,703例)でIEが認められ、IE合併例のTTP中央値は9時間と、非合併例の13時間に比べて有意に短かった。
多変量解析の結果、TTP 13時間未満はIEと独立して関連しており、そのオッズ比は3.59(95% CI 2.35–5.3)であった。
全コホートにおけるTTP 13時間超のIEに対する陰性的中率は96%(95% CI 95%–97%)であり、特に市中発症例では97%に達した。
また、2018年末に新たに導入された即時培養システムでは、採血直後から時間帯を問わず院内の装置(BacT/ALERT Virtuo)で即座にインキュベーションが開始される体制へと移行した。このシステムにより、TTPの中央値自体は13時間で不変であったものの、TTPの分布範囲(5〜95パーセンタイル)は5〜38時間から7〜26時間へと有意に収束し、輸送や運用の都合による極端な変動が抑制されたことが示された。

Clinical perspective

本研究の新規性は、TTP 13時間未満という指標が人工弁や持続性菌血症といった既存の強力なリスク因子に匹敵する臨床的意義を持つことを大規模データで示した点にある。
IDSAガイドライン等ではSAB全例に対する心エコー検査が推奨されているが、TTPが13時間超で臨床的な疑いが低く、かつ人工弁留置を認めない症例では、経食道心エコーの優先度を下げる根拠となり得る。
ただし、単施設の後方視的研究であり、全症例の65%でしか心エコーが実施されていない点には留意が必要である。
今後は、TTPを組み込んだアルゴリズムが、経食道心エコーの適応の適正化や早期の経口抗菌薬切り替えに寄与するかを検証する前向き研究が期待される。