LBCLに対する抗CD19 CAR-T療法におけるレベチラセタム予防投与の有効性と安全性:多施設共同傾向スコアマッチング解析による検証

CAR-T療法におけるレベチラセタム予防投与の検証研究 Recent Papers

Galli E, Di Blasi R, Di Rocco A, et al. Routine prophylaxis with levetiracetam offers no benefit in CD19 CAR-T for LBCL: a multicenter propensity-matched study. Blood Adv. 2025;9(21):5501-5509. doi:10.1182/bloodadvances.2025017378

Why this paper matters

CAR-T療法におけるICANS予防としてのレベチラセタム投与は、国際的なガイドライン間でも推奨が分かれており、実臨床では広く行われているもののその有効性を検証した比較試験は不足していた。
本研究は、全例に対するルーチンの予防投与がICANSの発症率や重症度を改善しない一方で、早期の血液毒性を有意に増強させる可能性を臨床データで示しており、現在の予防戦略の再考を促す重要な知見である。

CARTOX米国2017CAR-T関連脳症症候群(CRES/ICANS)を引き起こすとされるCAR-T製品で推奨レベチラセタム 750mg 1日2回
ASCO米国2021高リスク患者で検討(ICANSリスクの高い製品、てんかん既往、中枢神経疾患、脳波異常、脳腫瘍病変など)記載なし
EBMT, JACIE, EHA欧州2022高リスク症例を除き推奨されない記載なし
SFGM-TCフランス2022痙攣リスク増大を示唆する因子がない限り推奨されない記載なし
Pan-UK Pharmacy Working Group英国2022高リスク製品の使用、痙攣既往、中枢神経疾患がある患者で検討すべきレベチラセタム 500mgまたは750mg 1日2回
中国エキスパートパネル中国2023グレード1のICANSを発症した患者で推奨(予防としては非推奨)レベチラセタム 750mg 1日2回
SIE/SIDEM/GITMOイタリア2023全症例で推奨。特に高リスク(MCL、中枢神経浸潤既往、髄注治療歴、神経学的合併症など)レベチラセタム 750mg 1日2回

※本文の表1を改変

Study overview

ICANSはCAR-T療法の主要な合併症であり、その対策として痙攣予防目的のレベチラセタム投与が慣習的に行われてきたが、その臨床的意義は確立されていなかった。
本研究は、レベチラセタムの予防投与がICANSの発生率と重症度を低下させるという仮説を検証するために実施された。
対象は、フランスとイタリアの3つの主要施設において2019年から2024年の間に抗CD19 CAR-T療法(axicabtagene ciloleucelまたはtisagenlecleucel)を受けたLBCL患者であり、中枢神経浸潤例や治験製品使用例などは除外された。
解析では、レベチラセタム予防投与群(LVT-yes)と非投与群(LVT-no)の背景因子を調整するため、傾向スコアマッチングを用いて1:1の比率で計254名(各群127名)を抽出した。
主要評価項目は全グレードおよび重症(グレード2以上および3以上)のICANS発生率とし、副次的に血液毒性(ICAHT)、CRSの発生状況、および生存転帰を評価した。統計解析には、傾向スコアマッチング後のロジスティック回帰分析および多変量解析が用いられている。

Key findings

傾向スコアマッチング後の解析において、全グレードのICANS発生率はLVT-no群で32.3%、LVT-yes群で37.1%であり、統計的に有意な差は認められなかった(P = .29)。
重症ICANS(グレード3-4)についても、LVT-no群7.9%に対しLVT-yes群9.7%と有意な改善は示されなかった(P = .71)。
特筆すべき点として、グレード2から4の早期血液毒性(ICAHT)の発生率は、LVT-yes群で63.9%と、LVT-no群の37.3%に比べて有意に高く(P < .001)、多変量解析においてもレベチラセタムの使用はICAHTの独立したリスク因子として抽出された。
また、全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)には両群間で有意差はなく、非再発死亡率(NRM)も同等であった。
なお、LVT-yes群ではトシリズマブやステロイドの使用頻度が高い傾向にあったが、これは施設間での管理方針やICU入室基準の相違が影響している可能性が示唆された。

Clinical perspective

本研究の新規性は、これまで広く行われてきたレベチラセタムの画一的な予防投与が、ICANSの抑制に寄与しないばかりか、治療初期の血液毒性を悪化させる懸念があることを大規模な背景調整下で初めて明らかにした点にある。
ICANSの病態の本質は、血脳関門の破綻による神経障害であり、典型的な脳波上のてんかん性変化や実際の痙攣発作を伴うことは極めて稀である(https://doi.org/10.1038/s41598-022-24010-1)。このことからも抗てんかん薬であるレベチラセタムにICANSの予防効果が認められなかったという結果は生理学的な面からの合致が考察されている。
研究の制約として、3施設のみのデータに基づいている点や、施設ごとの毒性管理戦略の相違が交絡因子となっている可能性が挙げられる。
今後は、中枢神経疾患既往や高リスク製品の使用例など特定の集団に限定した層別化戦略の検証や、preclinical model(https://doi.org/10.1038/s41591-023-02404-6) に見られるような炎症経路を標的とした新たな予防法の確立が期待される。