Czech MM, Jerussi T, Das S, et al. Usefulness and Limitations of Polymerase Chain Reaction (PCR) for the Diagnosis and Management of Toxoplasmosis Following Allogeneic Hematopoietic Cell Transplant: Single-center Experience With 31 Patients Over 16 Years. Open Forum Infect Dis. 2025;12(8):ofaf462. Published 2025 Aug 5. doi:10.1093/ofid/ofaf462
Why this paper matters
同種造血幹細胞移植(HSCT)後早期に発生するトキソプラズマ症に対し、全血PCRを用いたスクリーニングの有用性と限界を実臨床データに基づいて明らかにした点で重要である。
PCR陽性化と発症がほぼ同時期であることや、臓器特異的症状を欠く症例が多いことを示し、先制治療戦略における監視体制と早期介入の必要性を再確認している。
Study overview
同種造血幹細胞移植(HSCT)後においてトキソプラズマ症は早期(100日以内)の重篤な合併症である。38751人のHSCT患者を対象としたシステマティックレビューでは、中央値7.5%の潜伏感染割合であった。発熱が最も一般的な初期症状であり、主に中枢神経、肺、播種性感染症を引き起こす。
多くは潜伏感染の再活性化に起因し、血清陽性のHSCT患者においては無症候性感染を探索するため全血PCRでのモニタリングが推奨されている。しかし、PCR陽性と同時の発症や、陰性での発症も経験され、モニタリングの最適化については議論が続いている。
本研究は2008年8月から2024年11月の間に同施設でHSCTを受けた1235名の患者を対象としたレトロスペクティブな単施設解析である。
トキソプラズマ血清抗体陽性者を中心に、全血PCRを用いた定期的なスクリーニングおよび必要に応じたad hocな検査を実施し、感染症および臓器病変(確定、確実)の発生率、臨床像、診断精度を評価した。
Key findings
1235名のHSCT受容者のうち31名(2.5%)がトキソプラズマ症と診断され、そのうち21名は臓器病変を伴う疾患であった。
発症の中央値は移植後28日と極めて早期であり、症例の90.3%がST合剤による予防投与を受けていない時期に発症していた。
最も頻度の高い臨床症状は発熱(74.2%)であったが、肺病変を有する患者の67%、中枢神経病変を有する患者の69%が臓器特異的な症状を欠いていた。
全血PCRの累積感度は93.3%と高値を示したが、症状発現時にPCRが陰性であった例が5例認められ、またPCR陽性時に無症状であった8名のうち5名は既に画像上の末梢臓器病変を有していた。
治療はST合剤が48.4%で用いられ、トキソプラズマ症に直接起因する死亡率は12.9%であった。
Clinical perspective
全血PCRを用いた監視体制下にあっても、陽性確認時には既に臓器病変が進展している症例が少なくないことを示し、従来の「先制治療」の限界が明らかとなった。
血液診療においては、血清陽性患者に対し移植後早期のST合剤導入を最優先とし、導入までのリスクの高い期間は週2回のPCRモニタリングと肺・中枢神経系を標的とした積極的な画像評価を組み合わせるべきである。
ST合剤が使用困難な場合には代替薬としてアトバコンが考慮されるが、吸収効率の懸念から慎重な判断を要する。アトバコンは、脂肪分を含む食事と一緒に摂取しない場合吸収率が低下する可能性があることが指摘されており、移植直後の全身状態や食事摂取状況によっては、十分な血中濃度が得られないリスクがある。また、移植後早期に頻発する胃腸移植片対宿主病(GI-GVHD)などは、アトバコンの吸収をさらに阻害する要因となる。また、トキソプラズマ症を発症した患者のうち2名が発症時にアトバコンによる予防を受けていた。このように、アトバコン服用下でのブレイクスルー症例が報告されている点は重要な留意事項である。
本研究は単施設かつ後ろ向き解析であるという制限があるものの、移植後シクロホスファミド(PTCy)の使用など近年の移植管理におけるリスク反映している点も重要である。
今後の展望としては、全血PCRよりも早期に検出可能な可能性がある次世代シーケンシング(NGS)の臨床的有用性に関する検証なども期待されている。


