Kaulen LD, Martinez-Lage M, Abramson JS, et al. Clinical presentation, management, and outcome of TIAN in CNS lymphoma treated with CD19-CAR T-cell therapy. Blood. 2025;146(16):1902-1913. doi:10.1182/blood.2025028964
Why this paper matters
中枢神経系リンパ腫に対するCD19-CAR T細胞療法の適応が拡大する中で、ICANSとは異なる局所的な神経毒性であるTIANの臨床的意義が本研究により明確化された。ベースラインの腫瘍体積がTIAN発生の強力な予測因子であること、およびTIANの発症が良好な腫瘍反応性と生存期間に関連することが示され、臨床におけるモニタリングと治療戦略の最適化に直結する知見である。
Study overview
CD19-CAR T細胞療法は全身性リンパ腫において高い有効性を示す一方で、中枢神経系リンパ腫(CNSL)患者ではICANSとは異なる機序による神経毒性の懸念がある。
本研究は、CNSL患者における腫瘍炎症関連神経毒性(TIAN)の頻度、臨床および放射線学的特徴、予後的意義を包括的に明らかにすることを目的として実施された。
2018年から2024年までにマサチューセッツ総合病院にてCD19-CAR T細胞療法(TisagenlecleucelまたはAxicabtagene ciloleucel)を受けた原発性および二次性CNSL患者56名を対象とした後方視的解析である。
主要評価項目はTIANの発生頻度および臨床像、副次評価項目はTIAN発生の予測因子と無増悪生存期間(PFS)を含む臨床転帰である。
統計解析ではROC曲線を用いた予測因子の算出や、Cox比例ハザードモデルによる多変量解析が行われた。
Key findings
対象患者の17.9%にあたる10名でTIANが発生し、CAR T細胞注入後の中央値3.5日で臨床症状が現れた。
ベースラインの腫瘍体積はTIAN発生の有意な予測因子であり、3.4 cm³を超える場合に感度87.5%、特異度80.5%で発症を予見できたが、血清CRPやフェリチンなどの炎症マーカーは予測に寄与しなかった。
臨床的には局所神経症状や頭蓋内圧亢進症状が特徴であり、前者として低グレードのTIANでは、感覚運動麻痺(4/6名)、脳神経麻痺(1/6名)、失調(1/6名)が認められ、高グレード例でも全例で重度の感覚運動麻痺、および3名で不可逆性脳神経障害(cranial nerve deficits)が見られた。後者では、高グレードのTIAN(グレード3以上)で見られ、激しい頭痛(4/4名)、吐き気・嘔吐(3/4名)、意識レベルの低下(3/4名)がみられた。
TIAN症例の画像パターンにおいて、造影MRIで病変サイズが増大(一見すると悪化)している一方で、拡散強調画像(DWI)では信号が低下(細胞密度の減少を示唆)しているケースが確認された(リンパ腫は通常、細胞密度が高いためDWIで拡散制限を示す)。
ICANSと比較してサイトカイン放出症候群(CRS)の合併率が有意に低かった(60% vs 100%)。TIANを発症した10名のうち1名が、保存的な治療に反応せず最終的に脳ヘルニアによって死亡した。
TIAN発症例は非発症例と比較して奏効率が有意に高く(90% vs 52%)、PFSも延長しており(中央値18ヶ月 vs 2ヶ月)、多変量解析においてもTIANは独立した予後良好因子であった。
また、1例の剖検によりTIAN病変部はリンパ腫の完全寛解状態にあり、マクロファージの浸潤と壊死を伴う局所的な炎症像を呈していることが確認された。
Clinical perspective
本研究は、CAR T細胞療法後の神経毒性として、全身性の血中サイトカイン上昇を背景とするICANSとは異なり、腫瘍部位での標的特異的な炎症反応であるTIANが独立した臨床単位であることを実証した点に新規性がある。
TIANは強力な抗腫瘍効果の指標となる一方で、致死的な脳ヘルニアを来すリスクがあるため、大きな腫瘍容積を持つ症例ではICUでの厳密な頭蓋内圧モニタリングや、事前の放射線療法による減腫瘍などの予防的介入が考慮される。
解析が単一施設の後ろ向きデザインである点や症例数の制限といった限界はあるが、画像上の偽進行と真の増悪を区別する上でも本知見の臨床的価値は高い。
今後は、異なるCAR T細胞製剤や標的抗原におけるTIANの発生パターンの検証、および詳細な局所免疫微小環境の解析が期待される。


