免疫不全者における脳炎の病態と予後:免疫チェックポイント阻害薬関連を含む自己免疫性の重要性

免疫不全者における脳炎の病態と自己免疫性機序の影響に関するコホート研究 Recent Papers

Kolchinski A, Li M, Habis R, et al. Encephalitis in Immunocompromised vs Immunocompetent Patients: A Comparative Study. Open Forum Infect Dis. 2025;12(7):ofaf332. Published 2025 Jun 11. doi:10.1093/ofid/ofaf332

Why this paper matters

免疫不全者における脳炎は、免疫正常者と比較して非典型的な臨床像を呈し、予後が不良であることが示された。特に、免疫抑制状態であっても10%以上に自己免疫性脳炎が認められ、その多くが免疫チェックポイント阻害薬に関連しており、近年の治療変遷を踏まえた鑑別診断において極めて重要である。

Study overview

脳炎は感染症や自己免疫を原因とする脳実質の炎症性疾患であるが、免疫不全者における臨床像や予後の特徴に関する最新のデータは限られている。
本研究は、免疫不全状態が脳炎の病因、臨床症状、および転帰に与える影響を明らかにすることを目的として実施された。
米国の2つの主要な学術医療機関(ジョンズ・ホプキンス大学およびテキサス大学)において、2005年から2023年の間に脳炎と診断された18歳以上の成人657名を対象とした、レトロスペクティブ/プロスペクティブコホート研究である。
免疫不全状態は、HIV感染、活動性悪性腫瘍、固形臓器または骨髄移植、1ヶ月以上の高用量ステロイド服用(プレドニゾン20mg/日以上)、またはその他の免疫抑制療法を受けていることと定義された。

Key findings

対象患者657名のうち151名(23%)が免疫不全者であり、免疫正常者と比較して感染性脳炎の割合が有意に高く(57%対36%、P < .001)、自己免疫性脳炎の割合は低かった(12%対26%、P < .001)。
感染性脳炎の病原体として単純ヘルペスウイルス(HSV)は両群で最も一般的であったが、免疫不全群では帯状疱疹ウイルス(VZV)、クリプトコッカス、サイトメガロウイルスが有意に多く認められた。
特にHSV脳炎において、免疫不全群は髄液中の好中球増多(50%超)を呈する頻度が有意に高かった(31%対5%、P = .001)。
自己免疫性脳炎を呈した免疫不全者のうち、3分の2にあたる12名が免疫チェックポイント阻害薬に関連するものであった。
アウトカムに関しては、免疫不全群は院内死亡率が高く(14%対6%、P < .001)、退院時に不良な転帰(GOS < 4)を辿る割合も有意に高かった(70%対48%、P < .001)。

Clinical perspective

免疫正常者と比較して低いとはいえ、免疫不全者における脳炎の10%以上が自己免疫性であり、その多くが免疫チェックポイント阻害薬に起因していた。
血液疾患や悪性腫瘍の診療において、免疫抑制状態にある患者が脳炎を呈した場合、VZVやCMVといった日和見感染症のみならず、薬剤性の自己免疫性脳炎を常に鑑別に入れる必要がある。
また、免疫不全者におけるHSV脳炎では、リンパ球反応の減弱を反映して髄液好中球優位の非定型的な所見を呈し得るため、診断の遅れに注意を要する。
本研究はレトロスペクティブなデータを含んでおり、入院時のCD4陽性細胞数といった詳細なデータが多くの患者で利用できず、免疫抑制の「程度」や「重症度」を正確に反映した解析が困難であった。
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に関連する脳炎に焦点を当てた先行研究では、MRI所見は広範囲にわたることが示されているが、報告にばらつきがある。自己免疫性脳炎のサブグループ(その多くが免疫チェックポイント阻害薬関連)では、免疫不全者の方がMRI異常を認める割合が高かった(71% 対 44%、P = .044)。今後は、免疫チェックポイント阻害薬に関連する脳炎におけるMRIがどの程度の精度で異常を捉えられるか、真の有病率が定まっておらず、より大規模な調査が必要である。