血液腫瘍患者の好中球減少性発熱における胸部X線検査の臨床的有用性と治療方針への影響:後方視的コホート研究

血液腫瘍患者の好中球減少性発熱における胸部X線検査の臨床的有用性を検証した研究 Recent Papers

Dijkshoorn-Fokker D, Marina M, van Bruchem-van de Scheur A, et al. Limited Diagnostic and Therapeutic Value of Chest X-Rays in Hematological Patients With Febrile Neutropenia. Open Forum Infect Dis. 2025;12(8):ofaf419. Published 2025 Jul 18. doi:10.1093/ofid/ofaf419

Why this paper matters

好中球減少性発熱(FN)の初期診療において胸部X線検査は慣習的に行われているが、その結果が実際の治療方針変更に直結する頻度は極めて低いことが本研究で示された。
特に呼吸器症状のない患者において胸部X線検査の診断的・治療的価値は限定的であり、ルーチンな実施を省略することで医療資源の最適化や患者負担の軽減につながる可能性を示唆している。

Study overview

好中球減少性発熱は血液悪性腫瘍患者における重篤な合併症であり、肺感染症の診断を目的として胸部X線検査が頻用されるが、その臨床的寄与については議論がある。
欧州腫瘍内科学会は、好中球減少性発熱を有する全ての成人患者に対して胸部X線検査を推奨している(Initial assessment and investigations)。一方、米国感染症学会は、呼吸器症状を呈する患者のみに胸部X線検査を推奨している(Recommendation 8)。

本研究は、オランダの単一施設(Hematology Department of the Erasmus Medical Center, Rotterdam, the Netherlands)において2020年から2022年までに強力化学療法または同種造血幹細胞移植を受けた18歳以上のAML等の患者を対象とし、FN発症から48時間以内に胸部X線検査が施行された412エピソードを後方視的に解析した。
発症時の呼吸器症状の有無により患者をA群(症状あり)とB群(症状なし)に分類し、胸部X線検査および胸部CTの異常所見の頻度と、それらに基づく抗菌薬治療の変更率を主要な評価項目とした。

Key findings

胸部X線検査で新規の異常所見が認められた割合は全体で19.7%であり、A群では41.4%、B群では16.1%と症状がある群で有意に高かった(P < .001)。
しかし、胸部X線検査の結果のみに基づいて抗菌薬治療が変更されたのは全体の3.9%(A群 6.9%、B群 3.4%)に過ぎず、両群間に有意差は認められなかった(P = .200)。
一方で、胸部CTに基づく治療変更はA群で17.2%、B群で6.2%と有意差を認め(P = .004)、呼吸器症状がある場合のCTの有用性が示された。
また、真菌感染が疑われる結節影の検出頻度は症状の有無で有意な差はなく、微生物学的検査結果に基づく治療変更が全体の35.7%と最も高い割合を占めていた。

Clinical perspective

本研究は、血液悪性腫瘍患者のFN診療において、胸部X線検査が治療方針の決定に寄与する場面は極めて稀であることを実臨床データに基づいて明らかにした。
前述したESMOとIDSAの水晶においては、本研究の結果は後者の症状のない患者における検査の省略を支持するものである。
胸部X線検査の異常が認められてもその約半数が精密検査としてのCTへ移行するか、臨床的に無視されるため、直接CTを検討する方が効率的である可能性がある。
本研究は後方視的という限界もあるが、ルーチンな胸部X線検査の省略は医療費抑制や患者の移動に伴う感染リスクの低減に寄与すると考えられる。
胸部X線検査を省略する診断戦略の安全性を検証するためのランダム化比較試験を要する。