HGBCL-DH-BCL2に対するDA-EPOCH-R導入の意義:BC州での集団ベース解析による予後改善の検証

HGBCL-DH-BCL2に対するDA-EPOCH-R療法の有用性を地域集団ベースで検証した研究 Recent Papers

Alduaij W, Sehn LH, Champagne JN, Collinge B, Ben-Neriah S, Jiang A, Hilton LK, Boyle M, Meissner B, Slack GW, Farinha P, Craig JW, Savage KJ, Villa D, Gerrie AS, Freeman CL, Mungall AJ, Steidl C, Scott DW. Population-wide introduction of dose-adjusted EPOCH-R in high-grade B-cell lymphoma with MYC/BCL2 rearrangements, DLBCL morphology. Blood Adv. 2026 Jan 27;10(2):320-333. doi: 10.1182/bloodadvances.2025017282. PMID: 41071951; PMCID: PMC12828750.

Why this paper matters

HGBCL-DH-BCL2は標準的なR-CHOP療法では予後不良だが、希な疾患ゆえに治療強化の優越性を証明するランダム化比較試験の実施が困難であった。
本研究は、カナダのブリティッシュコロンビア(BC)州全体での治療指針導入によるアウトカムの変遷を検証することで、実臨床におけるDA-EPOCH-R療法の有用性を明確に示した。

Study overview

MYCおよびBCL2再構成を伴うHGBCL-DH-BCL2はR-CHOP療法での治療成績が極めて悪く、強力な化学療法の必要性が示唆されてきたが、症例の少なさ(LBCL形態の約6%)と病勢進行の速さが障壁となり、介入研究によるエビデンス構築が遅れていた。
また、臨床的に悪性度が高い、あるいは形態が特殊な症例のみにFISH検査が行われる傾向があったことや、「ダブルヒット」の定義が曖昧で、BCL2再構成を欠く症例や、単なるコピー数異常(増幅)を含む研究が混在していたこと、全身状態が良い患者のみが強化療法に選ばれる「選択バイアス」などの制限を排除できていなかった事も一因である。

HGBCL-DH-BCL2はWHO分類第5版および国際コンセンサス分類(ICC)において独自の疾患単位として定義された。本疾患は分子生物学的な均一性を有しており、MYC、BCL2に加えてBCL6再構成を伴う「トリプルヒット」はWHO分類第5版より包含される一方で、BCL2再構成を欠くMYCおよびBCL6の再構成例(HGBCL-DH-BCL6)は、その生物学的特性の違いから除外されている。
DLBCLの遺伝子ベースの分類であるLymphGen分類により、本疾患の多くが濾胞性リンパ腫(FL)と共通の変異景観を持つEZBサブタイプに割り当てられることが明らかとなっている。遺伝子発現プロファイリングでの細胞起源(COO)分類では胚中心B細胞(GCB)型に属するが、胚中心のダークゾーン(DZ)B細胞表現型を反映するダークゾーン・シグネチャー(DZsig)など、FISHを用いたHGBCL-DH-BCL2と完全に一致しない点も分類を複雑にしている。
臨床的な位置づけとしては、典型的な大細胞型B細胞リンパ腫だけでなく、より予後不良な形態とされるバーキット様や芽球様などのハイグレードな形態もHGBCL-DH-BCL2の定義に含まれる。また、MYCの転座パートナーとして症例の約50%を占める免疫グロブリン遺伝子がHGBCL-DH-BCL2症例の約50%を占め、予後不良因子として複数の研究で示されている。 the Lunenburg Lymphoma Biomarker ConsortiumGELA/LYSA studyなど。

本研究は、BC Cancerが75歳以下の適切な全身状態の患者に対しDA-EPOCH-Rを推奨するガイドラインを州全体に導入したことが、集団全体のアウトカムを改善したかという仮説を検証した、BC Cancerのデータベースを用いて州内の該当患者を網羅的に特定した「集団ベース(population-based)」のコホート研究である。
BC Cancerは、カナダのブリティッシュコロンビア(BC)州におけるがん診療および研究を担う機関である。BC州全体(province-wide)の治療ガイドラインを策定・導入する権限を持っており、2015年には、特定のリンパ腫患者に対してDA-EPOCH-R療法を推奨する州指針を導入した。

研究デザインは、ガイドライン導入後の2015年から2020年までのDA-EPOCH-R期と、研究目的で全例にFISHが行われた2005年から2010年までのヒストリカルコホートを比較する地域ベースのコホート研究である。
対象はLBCLの形態を呈する75歳以下の初発HGBCL-DH-BCL2患者であり、主要評価項目は無増悪生存期間(FFP)および全生存期間(OS)とした。
統計手法は、Kaplan-Meier法による生存分析、ログランク検定による群間比較、およびIPI因子を共変数としたCox比例ハザードモデルによる解析が用いられた。

Key findings

HGBCL-DH-BCL2患者において、DA-EPOCH-R期の2年OSは75%であり、ヒストリカルコホートの47%と比較して有意に改善した(P=0.008)。
同様に2年FFPも71%対47%と有意に向上しており(P=0.02)、この改善はIPI等の予後因子で調整した多変量解析においても独立して維持されていた。
一方で、同時期のDLBCL, NOS患者のOSには有意な改善がみられなかったことから、予後向上は全般的な支持療法の進歩ではなくDA-EPOCH-Rの導入に起因すると考えられる。
分子生物学的解析では、特にIG::MYC再構成を有する症例(2年OS:87%対36%)やダークゾーン・シグネチャー(DZsig)陽性例においてアウトカムの改善が顕著であった。
また、濾胞性リンパ腫からの形質転換例については、前治療歴のない症例では初発例と同等の良好な成績が得られたが、化学療法既治療例の予後はDA-EPOCH-Rを用いてもなお極めて不良であった。

Clinical perspective

本研究は、単一施設の後ろ向き報告ではなく、地域全体の治療指針としてDA-EPOCH-Rを導入したことによる集団レベルでの予後改善効果を実証ししている。
これはHGBCL-DH-BCL2の標準治療選択において、強力なレジメンを支持する実効性の高い根拠となる。
ただし、実臨床では小生検検体でのFISH評価の限界や、全身状態により約3割の患者が治療強化を断念せざるを得なかったという制約が残る。
今後は、本研究で同定されたDZsig陽性例や、IG::MYC再構成を有する症例などの高リスク群に対し、REMoDL-B試験で示唆されたボルテゾミブの追加や、新規治療戦略を検証する臨床研究の進展が待たれる。