Hovind MJ, Berdal JE, Dalgard O, Lyngbakken MN. Empiric Antibiotic Therapy in Suspected Sepsis: Impact of Gentamicin-Based Regimens on Incident Renal Failure and Mortality. Open Forum Infect Dis. 2025;12(6):ofaf319. Published 2025 Jun 4. doi:10.1093/ofid/ofaf319
Why this paper matters
敗血症疑い患者に対する初期経験的治療において、アミノグリコシド系抗菌薬は腎毒性への懸念から回避され、広域βラクタム薬が選択される傾向にあるが、本研究は低耐性地域におけるゲンタマイシン併用療法の安全性を実臨床データで示した。
短期間のゲンタマイシン投与は、広域βラクタム薬単剤と比較して急性腎障害(AKI)や死亡のリスクを増大させず、抗菌薬適正使用を推進する上で重要な根拠を提示している。
Study overview
敗血症における早期の適切な抗菌薬投与は予後改善に不可欠であるが、広域βラクタム薬の多用は薬剤耐性菌の増加を招く課題がある。抗菌薬が腸内細菌叢に影響を与えると、感受性のある菌が死滅し、耐性を持つ菌が選択的に増殖する「選択圧」が生じる。アミノグリコシド系(ゲンタマイシン)は腸管腔への移行が最小限であり、狭域βラクタム薬(ペニシリン系)も腸内のグラム陰性嫌気性菌や腸内細菌目への影響が極めて少ない。対照的に、広域βラクタム薬はこれらの細菌叢に広く影響を及ぼし、AMRの発現やClostridoides difficile感染のリスクを増大させる、としている。
その対応策としてノルウェーのガイドラインでは狭域βラクタム薬とゲンタマイシンの併用が推奨されているものの、腎毒性への過度な懸念からアミノグリコシド系が回避され、代わりに広域βラクタム薬が選択される傾向にあることが、結果として広域薬の使用量を上昇させている。
しかし、広域薬から「狭域βラクタム薬+ゲンタマイシン」への切り替えを推奨する制限的なガイドラインの導入は、臨床アウトカムを悪化させることなく、AMRおよびC. difficile感染症の減少に関連したことが報告されている。2008年にグラスゴーの病院で制限的なガイドラインを導入した結果、セフトリアキソンやアモキシシリン・クラブラン酸(広域薬)の使用が減り、アモキシシリンとゲンタマイシンの使用が増加した。この変更により、1年後の死亡率はむしろ低下し(RR 0.852)、集中治療室(ITU)への入室や入院期間などの二次的なアウトカムに悪影響は認められなかった。更に、C. difficile_感染症(CDI)が有意に減少し(RR 0.571)、セフトリアキソンやアモキシシリン・クラブラン酸に対する細菌の耐性も減少した。
一方で、広域薬と比較した腎毒性のリスクに関するエビデンスは限定的であった。
※ 日本国内においても広域抗菌薬をスペアリングする目的で、スペクトラムを広げる手段としてアミノグリコシドを併用するプラクティスが散見されます。効果ベースでいうとその有用性は確認されていないという認識でしたが、このようなプラクティスも主に北欧において支持されているようです(知りませんでした)。ちなみに、引用サイトのノルウェー国立保健局のガイドラインはノルウェー語で書かれています。
本研究は2017年から2022年にノルウェーの三次救急病院へ市中発症敗血症疑いで搬送された成人1917例を対象とした後方視的コホート研究である。
介入群は狭域βラクタム薬(ベンジルペニシリンまたはアンピシリン)とゲンタマイシンの併用を受け、対照群はセフォタキシム、ピペラシリン・タゾバクタム、メロペネムのいずれかの投与を受けた。
主要評価項目は、投与開始から30日以内のAKIステージ(KDIGO基準)および全死亡を組み合わせた5段階の順序尺度とし、背景因子、基礎腎機能、重症度スコア(NEWS2)、昇圧剤使用、人工呼吸器管理などの変数を用いて調整した順序ロジスティック回帰分析により評価された。
5-level ordinal scale
この尺度は、投与開始から30日以内における最悪の臨床状態を以下の5段階で定義している。
- ステージ 0:生存かつAKIなし
- ステージ 1:生存かつKDIGOステージ1(血清クレアチニン値が基線の1.5–1.9倍、または≥26.5 μmol/Lの上昇)
- ステージ 2:生存かつKDIGOステージ2(血清クレアチニン値が基線の2.0–2.9倍)
- ステージ 3:生存かつKDIGOステージ3(血清クレアチニン値が基線の3.0倍以上、または≥353.7 μmol/Lへの上昇、あるいは急性の腎代替療法の開始)
- ステージ 4:全死因死亡
Key findings
対象者の33.1%がゲンタマイシン併用療法を、66.9%が広域βラクタム薬療法を受けており、後者は併存症が多く重症度も高い傾向にあった。
調整後の解析において、広域βラクタム薬の使用はゲンタマイシン併用群と比較して、より高い段階のAKIまたは死亡と有意に関連していた(調整オッズ比 1.61、95%信頼区間 1.27–2.04)。
ゲンタマイシンの累積投与量と最大クレアチニン値の間に有意な相関は認められず、ゲンタマイシン投与によりAKIを発症した症例においても、30日間の追跡期間中にクレアチニン値は正常化した。
30日全死亡率は広域βラクタム薬群で26.9%、ゲンタマイシン併用群で15.3%であり、本研究の主要な結果は死亡率の差に起因していたが、腎障害リスクそのものについては両群間で同等であった。
Clinical perspective
本研究は、敗血症疑い患者に対する「1日1回投与・短期間」のゲンタマイシン併用が、広域βラクタム薬と比較して腎機能悪化のリスクを増大させないことを大規模な実臨床データで裏付けた。
5-level ordinal scaleはセフェピムとピペラシリン・タゾバクタムの腎毒性を比較したACORN試験で用いられた手法に基づいており、アミノグリコシドの安全性を再評価したものである。ACORN試験では評価期間が14日間であったのに対し、本研究では30日間へと延長されている。これは、アミノグリコシド起因性のAKIが通常投与開始から5–10日後に現れることを考慮し、潜在的な腎毒性をより確実に捉えるためである。
広域βラクタム薬(BS群)を選択された患者群は、ゲンタマイシン併用群(NG群)と比較して、開始時点ですでに併存症(CCIスコア)が多く、基礎腎機能(eGFR)が低く、昇圧剤や人工呼吸器を必要とする割合が有意に高い状態であったという適応交絡(confounding by indication)があり、discussionではBS群のアウトカムが統計上悪く出た理由は、広域薬そのものが有害だったからではなく、「臨床医の判断によって、より死亡リスクが高く、虚弱な(frailty)患者に対して広域薬が選択されたのではないかと考察されている。腎障害(ステージ1〜3)の発生リスクそのものについては、両群間で実質的な差は認められておらず、適切な患者選択のもとでの短期間使用であれば、腎毒性を過度に懸念してアミノグリコシドを避ける必要はないことが示唆される。ゲンタマイシン投与によりAKIを発症した症例であっても、30日間の追跡期間中に腎機能は正常化しており、BS群よりもむしろ良好な回復傾向を示している。
ノルウェーのような低AMR地域において、広域薬の使用を抑制し、ゲンタマイシンベースのレジメンを維持することは、現在の良好な薬剤感受性パターンを保護するための重要な戦略である。
今後は、ノルウェー以外の耐性パターンの異なる地域での検証を要する。


