非好中球減少症の重症患者における侵襲性真菌感染症:診断的困難と非典型的な臨床像に関するレビュー

非好中球減少重症患者における侵襲性真菌感染症の診断と管理に関するレビュー Recent Papers

Kreitmann L, Blot S, Nseir S. Invasive fungal infections in non-neutropenic patients. Intensive Care Med. 2024;50(12):2166-2170. doi:10.1007/s00134-024-07683-2

Why this paper matters

集中治療室(ICU)における侵襲性真菌感染症(IFI)は、古典的には高度な免疫不全、特に好中球減少を伴う患者の疾患とされてきた。
しかし、近年では、好中球減少を認めないにもかかわらず、侵襲性カンジダ症(IC)や侵襲性アスペルギルス症(IA)を発症する重症患者が増加しており、その診断と管理が極めて困難な課題となっている。
これらの患者群では、好中球減少患者に特徴的な典型的な画像所見や血清学的バイオマーカーの挙動が認められないことが多く、診断の遅れが死亡率の増大に直結する。
本レビューは、非好中球減少患者におけるIFIの特異的なリスク因子、診断ツールの限界、および非典型的な臨床症状を示し、臨床現場でのマネジメントについてまとめている。

Study overview

本レビューは、ICUにおける非好中球減少症患者を対象とした侵襲性カンジダ症および侵襲性アスペルギルス症に関する最新の知見およびコンセンサスを基にしている。
特に、従来の血液培養や血清学的検査が非好中球減少症患者においてなぜ十分な感度がないのか、その生物学的背景を検討している。
また、COPD、肝硬変、インフルエンザ、COVID-19といった、免疫不全とはみなされてこなかった新たなリスク因子の広がりと、それらがもたらす非典型的な病態(例:気管支肺胞洗浄液でのみ陽性となるアスペルギルス症など)について詳述されている。

Key arguments / Evidence synthesis

侵襲性カンジダ症(IC)における非好中球減少症患者の特徴は、血流感染(カンジダ血症)を伴わない「深在性カンジダ症」の頻度にある。
好中球減少症患者では血流感染が主体的であるが、非好中球減少症の、特に外科系患者では、腹部手術後の縫合不全や解剖学的破綻による直接的な対空内での感染症の成立が問題となる。
血液培養は血流中の生存菌を検出するには有用だが、深在性カンジダ症における感度は約50%に留まり、診断の大きな障壁となっている。
培養以外の診断ツールである(1,3)-β-D-グルカン(BDG)は、真菌細胞壁の成分を検出するものであり、ICにおける感度は74〜86%陰性的中率(NPV)が95%を超える点にあり、これによりICの迅速な除外診断が可能となる。
一方で、特異度は低く、特にバイオマーカーの陽性結果のみに基づいて開始される先行的治療(pre-emptive treatment)は、陽性的中率(PPV)が不十分であるため推奨されていない。
特異度を改善するためには、2回連続の陽性結果や、より高い閾値の検討が必要とされる。

侵襲性アスペルギルス症(IA)においては、非好中球減少症患者と好中球減少症患者の間で臨床像が異なり、非好中球減少症患者のIAの診断は困難であることが多い。
第一に、画像所見の非典型的である。
好中球減少症患者で典型とされるCT上の「ハローサイン(halo sign)」や「空気三日月徴候(air-crescent sign)」は、非好中球減少症患者では極めて稀である。
代わりに、非特異的な浸潤影や空洞性病変が主体となるため、画像のみでの鑑別は困難を極める。

第二に、血清学的バイオマーカーの感度不足である。
好中球減少症患者では有用な血清GM試験(カットオフ値: > 0.5)感度が著しく低い。
この現象の生物学的背景として、循環血液中の好中球がアスペルギルス抗原を効率的に除去し、好中球減少患者における典型像である血管侵襲が制御されている可能性がある。
そのため、非好中球減少症患者では血清GM試験が陰性であってもIAを否定することはできない。
対照的に、病変部位に近接した気管支肺胞洗浄液(BALF)を用いたGM試験(カットオフ値:≥ 1.0)は、高い診断価値を有する。
また、気管吸引液の培養やアスペルギルスPCR法も感度は良好であるが、偽陽性率が高いという課題を抱えている。

第三に、これまであまり述べられていなかった新たなリスク因子が同定されてきたことである。
中等度から重度のCOPD、代償不全を伴う肝硬変、重症インフルエンザ、COVID-19を背景としたIAが報告されており、これらは従来の免疫不全の定義に当てはまらない患者集団において「probable IA」を引き起こす主要な要因となっている。

Clinical perspective

非好中球減少症患者におけるIFI管理の核心は、不確実性の中での迅速な対応にある。典型的な臨床提示を欠くため、診断は「確定(proven)」を待つのではなく、リスク因子、非特異的な臨床徴候、および複数の微生物学的証拠を組み合わせた総合的な判断に基づかなければならない。

特にIAにおいて、血清GM試験が陰性であっても感染を否定できない点は、非好中球減少症患者に特有の注意点である。
また、ICにおける経験的抗真菌薬治療(EAT)の開始判断においては、敗血症性ショックの有無や複数のリスク予測モデルが活用されるが、バイオマーカーのみを根拠とした先行的治療(pre-emptive treatment)は、低いPPVゆえに推奨されていない。
一方で、バイオマーカーの連続的な陰性結果は、不要な抗真菌薬の早期中止に極めて有用な指標となる。

治療薬の選択においては、非好中球減少症の重症患者特有の生理学的変化(分布容積の増大や臓器機能不全)を考慮し、特にアゾール系薬剤(ボリコナゾール、イサブコナゾールなど)を使用する際には治療薬物モニタリング(TDM)による個別化が行われている。
さらに、非albicans菌種やアゾール耐性菌の増加という疫学的変化を背景に、種同定と感受性試験の結果を待たずに開始される初期治療としてのエキノキャンディン系薬剤の重要性が増している。
非好中球減少症患者におけるIFIは、典型的なパターンに当てはまらないことを意識した注意深いアプローチが求められる。