Flamant A, Demirjian A, Lamagni T, Toubiana J, Smeesters PR, Cohen JF. Invasive group A streptococcal infections: lessons learned from the 2022-23 upsurge. Lancet Infect Dis. 2026;26(2):e91-e95. doi:10.1016/S1473-3099(25)00343-3
Why this paper matters
A群連鎖球菌(GAS)は、咽頭炎などの一般的な感染症から、壊死性筋膜炎や連鎖球菌性トキシックショック症候群(STSS)といった生命を脅かす侵襲性A群連鎖球菌(iGAS)感染症まで、幅広い病態を引き起こす原因菌である。iGAS感染症は、高度な医療体制が整った高所得国においても10〜20%という極めて高い致死率を示す。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以前、多くの国でiGASの発生率は緩やかな上昇傾向にあったが、パンデミック初期のロックダウン、ソーシャルディスタンス、学級閉鎖、マスク着用などの非薬物的な介入により、その発生は一時的に劇的に抑制された。
しかし、2022年後半から2023年にかけて、欧州、南北アメリカ、オセアニア、日本を含む世界各地で、小児の死亡例を伴う前例のないiGAS感染症の急増が報告された。
本論文は、この世界的急増の背景にある複合的な要因を、臨床的および疫学的エビデンスに基づき整理したものであり、将来的な感染症モニタリング体制と公衆衛生戦略を行っていく上で極めて重要な知見となる。
Study overview
本稿は、2022年から2023年にかけて観察されたiGAS感染症の急増に関する最新のエビデンスを包括的に統合したレビュー・コメンタリーである。
対象は、主に欧州諸国の全国規模の監視データ(ベルギー、デンマーク、アイスランド、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、英国)を中心に、北米やオセアニア、日本からの報告も含まれている。
主に、
(1)COVID-19パンデミックに伴う行動制限や対策がGASの循環と宿主免疫に与えた影響
(2)インフルエンザやRSウイルス(RSV)といった他の呼吸器ウイルスとの共同感染および流行時期の重なり
(3)M1UKクローンに代表される特定の高病原性株の出現と拡散という3つの潜在的な要因
について、多角的な検証を行なっている。
Key arguments / Evidence synthesis
このiGASの急増は単一の要因に起因するものではなく、複数の要素が複雑に絡み合っていることが示唆された。
第一の要因は、パンデミック期間中の曝露減少に伴う「感受性人口の拡大」である。
2020年から2021年にかけてのNPIにより、GASの伝播は大幅に減少した。フランス、ベルギー、デンマーク等のデータでは、マスク着用義務の解除やNPIの終了から数ヶ月以内にまず非侵襲性感染症(niGAS)が急増し、その後にiGASのピークが続くという時間的関連が確認されているCobo-Vázquez E, et al. (2023)、Lassoued Y, et al.、Cohen JF, et al. (2023)。
また、成人血中ドナーを対象とした縦断的研究では、パンデミック中に主要なGAS抗原に対する抗体価が有意に低下しており、集団免疫の減衰が判明した。
第二の要因は、他の呼吸器ウイルスとの相互作用である。
2022年から2023年のiGAS急増期は、SARS-CoV-2、インフルエンザ、RSVの「トリプル・エピデミック」と重なっていた。
ウイルス感染は、宿主の免疫応答を修飾し、細菌の付着や細胞内への侵入を助長することで、iGAS発症の臨床的なトリガーとなり得る(https://doi.org/10.1016/s1473-3099(22)00865-9)。
英国のサーベイランスデータでは、iGAS感染症の小児の約4分の1に呼吸器ウイルスの同時感染が疑われ、特にGAS肺炎を伴う症例では66%という高いウイルス検出率が報告されている。
第三の要因は、分子疫学的な変化、特に高病原性クローンの拡散である。
GAS株は、細胞表面に存在する主要な病原性因子であるMタンパク質(emm遺伝子によってコードされる)の型によって分類される。
現在、260種類以上のM型(emm型)が同定されており、これらは非侵襲性疾患(niGAS)から侵襲性疾患(iGAS)まで、多様な臨床像に関連している。
M1系統は、敗血症や壊死性筋膜炎などの重症感染症だけでなく、咽頭炎などの非侵襲性疾患からも頻繁に検出される、世界的にも極めて一般的な系統である。
1980年代以降、M1globalクローンが世界的な主流であったが、近年、化膿性連鎖球菌外毒素A(SpeA)の産生能が高いM1UKクローンが台頭し、多くの国で優占種となっている。
M1UKクローンは2008年に英国で初めて検出された。その後、2022年から2023年の世界的急増期にかけて、欧州、北米、オーストラリア、ニュージーランド、そして日本へと広がり、既存のM1クローンを段階的に置き換える形で優占種となった。
M1UKは27箇所の単一塩基多型(SNP)を蓄積しており、これがスーパーアンチゲンとしての性質を強め、連鎖球菌性熱原性外毒素A(SpeA)の産生能が大幅に増強することでサイトカインストームを誘発する要因となっている可能性がある。
欧州諸国では、iGAS分離株の33〜64%をM1/emm1系統が占め、その中の42〜96%がM1UKであった。また、デンマークのM1DKやオランダのM4NL22といった新たな系統の出現も確認されている。
Clinical perspective
臨床現場において、iGAS症例は「氷山の一角」に過ぎないことを認識する必要がある。
フランスの調査では、乳幼児のGAS鼻咽頭保菌率が例年の1%未満から8.4%へと15倍以上に上昇したことが確認されており、市中におけるGASの高い循環率が、最終的な重症例の増加を招いている。
したがって、重症例のみならず、鼻咽頭保菌やniGAS(咽頭炎、膿痂疹、猩紅熱等)を含めた包括的なモニタリングが不可欠である。
iGASの動態は極めて流動的であり、2024年の報告では、オランダや英国においてemm3.93型がM1UKに取って代わる兆候が見られており、特定の高病原性クローンに対する監視を継続する必要がある。
また、RSVワクチン等の集団免疫導入が、二次的な細菌感染症であるGASの疫学にどのような長期的影響を及ぼすかは、現時点では不透明であり、継続的なサーベイランスが求められる。
臨床医は、ウイルス流行期における二次性細菌感染症としてのiGASの可能性を常に考慮し、特に非特異的な症状を示す小児において、迅速な診断と早期治療介入の重要性を再認識すべきである。
集団免疫の変動、ウイルスの同時流行、細菌の進化的変化という3つの軸を統合した、強固な監視体制の維持が、今後のiGAS対策として重要である。


